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補陀落渡海記

薬師如来は東方瑠璃光浄土に、阿弥陀如来は西方極楽浄土にいらっしゃる・・・・
東と西、きれいな朝日や夕日を眺めているとそんな気がしないでもない。
信仰などまったく関係なく、何となく聞き知った「浄土」というものがありそうにも思えてくる。

それならば・・・・・朝晩手を合わせている観音様はどこに住んでいらっしゃる?
「補陀落山」というところ、「補陀落浄土」ともいわれるところにいらっしゃるのだという。
インドの言葉では「ポータラカ」と言い、どうやらそれは南方の海上の彼方にあるらしい。

観音信仰が盛んになってくると、日本でも「補陀落山はどこであろうか」ということになって、
日本各地、例えば栃木の二荒山や山形の月山も補陀落山として信仰されたようです。
そういう中で、特に信仰が深かったのが、和歌山の「那智勝浦」の方で、勝浦の浜から
小舟に乗って南方の海上まで探しに行く人もいたらしい。
それも、僅かな食料を積んだだけ、乗りこんだ場所は中からは出られないように外側を
厳重に囲われ、沖まで曳き船に引かれて、後は流されるだけ・・・・・。
信仰の強さによるのでしょうが、実際にこういうことがあったそうです。

このあたりのことを書いているのが、井上靖の「補陀落渡海記」です。
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本人はその気がないのに、寺の慣習として否応なく舟に乗せられてしまう僧侶の物語です。

沖へ流され一度は囲いを破って舟から逃げ出し、漂流して島へ流れ着くのですが、居合わせた人達によって再び舟に乗せられてしまう。

舟に乗せられる時に「救けてくれ」と言うのですが、声が小さかったこともあり、まさかこんなことを言うとも想像できないことで、まわりの者には言葉として届かない。

井上靖の文章は静謐で格調があり、哀れさがしみじみと伝わってきました。
本屋さんでは古い作家のものはもう並んでいなくて取り寄せてもらったのですが、
短編ながら読み応えがあり、久し振りに小説の面白さを堪能しました。
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by suirenn2 | 2012-02-02 11:45


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